top of page

子どもを守る行政の責任者は誰なのか?虐待から子どもを守るために必要なこと

更新日:2022年1月6日




目黒区虐待事件で5歳という幼さで亡くなった船戸結愛ちゃん。3年の命日にあたる3月2日、第5回「こども庁」創設に向けた勉強会を開催しました。今回の勉強会も、リアルとオンライン合わせて20名以上の国会議員と役所の方々にご出席いただきました。


写真:会場の様子

今回は、日本子ども虐待防止学会理事で小児精神科医でもある奥山眞紀子先生から「縦割り行政の弊害について」、船戸結愛ちゃんの主治医であった木下あゆみ先生(国立病院機構四国こどもとおとなの医療センター小児アレルギー内科医長)から「小児科医から見た子ども虐待について」お話を伺いました。




写真)右から、木下あゆみ先生、奥山眞紀子先生、牧原秀樹衆議院議員、自見はなこ参議院議員、山田太郎参議院議員

まず奥山眞紀子先生の講演では、子ども虐待防止の観点から、各機関の支援連携における現状の課題についてご指摘がありました。なかでも、福祉と教育の連携、福祉と警察の連携、そして市区町村と都道府県間の連携に壁があることを改善すべきだ、という強い訴えは、印象的でした。


例えば、福祉と教育の連携においていえば、福祉が担う児童相談所・市町村子ども家庭総合支援拠点と教育が担う幼稚園・学校との協働が難しい理由は、「”子どもが権利の主体である”という教育と福祉の認識のずれ」が大きいからだと、先生は述べていました。特に教育現場で“子どもの権利”という概念自体が欠如している教員が大変多いといいます。


現在、”子どもが権利の主体である”と明記されているのは、児童福祉法のみであり、教育基本法では明記されていないため、学校教員に“子どもは権利の主体である”という意識がない、という現状が生じています。そして、これが福祉と教育の連携を難しくさせている要因の一つとなっています。

写真)奥山眞紀子先生(日本子ども虐待防止学会理事・小児精神科医)

また、被虐待子の多くはトラウマを抱え、学校生活に問題を抱えている一方で、教育の分野では、トラウマへの関心が低いです。日本子ども虐待防止学会(JaSPCAN)の職種別会員数でも教育関係者の会員は、2820人中43人と相対的に少なく、虐待への関心の低さがうかがえます。



図)奥山先生提供資料

他にも、市区町村と都道府県においての連携の問題が大きく、市区町村が担当する子ども家庭支援と都道府県が担当する児童相談所の狭間に落ちる事例は後を絶たない現状です。そして、これら縦割り問題を解決するには子どもの権利を基盤におく「子ども庁」設置が必要である、との提言をいただきました。

次に、木下あゆみ先生からは小児科医の視点から見た縦割り行政の弊害についてお話していただきました。木下先生は小児科医として長年、児童相談所と共に様々な児童虐待の問題に取り組んでおられる方です。


写真)木下あゆみ先生(国立病院機構四国こどもとおとなの医療センター小児アレルギー内科医長)

講演の中で痛ましい写真とともに紹介があった、生後30日の女児が全身傷だらけで心肺停止で亡くなってしまった事例を聞いた時は、胸がとても痛くなりました。

この事例は学校・病院・地域保健師・警察それぞれが、その女児がいた家庭が抱える問題と虐待のリスクを認識していたにも関わらず、横の連携による情報共有が上手くいかずに、子どもが亡くなってしまった事例の1つです。このように、縦割りの隙間に弱者が落ちてしまう例が後をたちません。

また、虐待を予防する段階において、医療の関与をもっと推し進めるべきとの提言もありました。現状の日本の虐待対策支援は大きな事件が起こってから対処することが多く、予防の部分の対策が手薄になっています。しかし、虐待予防の上で、医療の専門性は十分活かされると、先生は強く主張されました。


例えば、虐待を受けた赤ちゃんなどは話すことが出来ないため、体を診察して初めて虐待が起こっていることが分かったりします。そして、虐待の早期発見が虐待が深刻化を防ぐことが出来るのです。しかし、医療の連携が十分できているケースはまだまだ少なく、課題が多いといいます。

なかでも、司法面接における医療視点の必要性を訴えられていました。司法面接とは、子ども(および障害者など社会的弱者)から、できるだけ正確な情報を、できるだけ負担なく聴取することを目指す面接法のことです。


図)木下あゆみ先生提供資料

現在この司法面接では、児童相談所・警察・検察の3者協議で行われていますが、虐待の判断は福祉や司法の観点だけではなく、医療の観点も必要になってきます。なぜならば、診察を通して初めて分かることや、それをきっかけに話を引き出すことが出来るからです。それに付け加えて、子どもにとっても医師の「あなたの体は大丈夫」という言葉は大きな安心につながります。これまでも診察の中で「『先生だけに話すね』といって父から虐待をうけていることを話してくれることがある。小児科医だからもっている重要な情報も多い。」というお話は、子どもの命を守る上で非常に重要な視点のひとつでしょう。


そして、これら多職種協議では、情報をただ「提供」するのではなく、膝を突き合わせて「共有」することが必要です。お互いの職域・できることできないことを知り、皆が少しずつ「のりしろ」を広げると縦割りの隙間が埋まっていくからです。そのためには「共有」する場が必要であり、その場として「子ども庁」の設置が必要だと力強いお言葉をいただきました。


 本会議の都合で開催時刻が遅くなってしまったにもかかわらず、ほとんどの先生が19時過ぎまで議論してくださいました。


写真)長島昭久衆議院議員


写真)木村弥生衆議院議員


写真)鈴木貴子衆議院議員

船戸結愛ちゃんの命日にこの勉強会が開かれたのは偶然とは思えません。この機を逃しては、また5年・10年と行政の縦割りの隙間に落ちる子どもの命は絶えません。

子どものことを第一に考えた子ども庁を設置できるよう、引き続き邁進してきます。





0件のコメント
bottom of page