5月10日、私たちが事務局を務める第13回目の「Children Firstのこども行政のあり方勉強会〜こども庁の創設に向けて〜」を開催しました。
第13回勉強会では「食育〜子どもへの栄養教育の重要性〜」をテーマに、中村丁次さん(神奈川県立保健福祉大学学長・公益社団法人日本栄養士会会長)に「子どもへの栄養教育の重要性〜人間が教育をしないと人間の食事にはならない〜」、村山伸子先生(新潟県立大学人間生活学部健康栄養学科)に「こども庁創設への期待~日本型の学校給食で世界の子どもの健康づくりを支援する~」とそれぞれ題し、ご講演いただきました。
写真)冒頭の挨拶をしている様子(山田太郎)
近年栄養に関する様々な研究によって、新たな事実が浮き彫りになってきています。例えば中村先生からは、胎内にいる時から2歳の誕生日までの1000日間の栄養が大事だとお話がありました。なぜならば、体内にある多くの器官や組織が妊娠6〜10週間で形成し始めるからです。また、母体が栄養不良だと、低栄養児を生み、脳や神経系の発達を阻害し、生活習慣病を発生しやすくさせることがわかっています。このように、胎児・小児の時の栄養が生涯に渡る健康状態を決めているのです。しかしながら、厚生労働省の「乳幼児身体発育調査」によると、低出生体重児の割合は戦後よりも増えてます。また、超低出生体重児(100g未満)の出生数は35年間で約2倍に増加しています。更に、2008 年の平均出生体重は男児3.05 kg/女児2.96 kg と、1951年の平均値を下まわっています。このことからも、栄養についての教育が必要だと理解できます。
図)中村先生提供資料
また、中村先生からは病気の発症予防のために生活習慣(食習慣と運動習慣)が大事だという、ご説明がありました。その根拠として、生活習慣(食習慣と運動習慣)が糖尿病の予防に与える影響の実験があります。この実験では3つのグループに分けて、糖尿病の発症確率についてそれぞれ調査しました。1つは糖尿病発症後も放置されたグループ(Placebo)、2つ目は発症前から糖尿病の薬を投与したグループ(Metformin)、3つ目は適切な生活習慣を送っていたグループ(Lifestyle)です。この実験の結果、驚くことに糖尿病を予防するには、薬の投与より生活習慣の改善の方が効果が大きいことが分かりました。
写真)左:中村丁次先生。上のグラフはアメリカの教科書に載っているという、ミスユニバース優勝者のBMI値の変化。1920年はBMI値が21を超えていたが、1970年からはBMI値が18(痩せ)を下回っており、世界的にも痩せ型への信仰が増していることがわかる。
図)中村さん提供資料
さらに、糖尿病は遺伝の影響が大きいと言われていますが、生活習慣の改善が予防には最も効果的なことも分かっています。下図の実験では、被験者を3つの集団に分け、3つの場合で実験を行いました。まず被験者を、祖母祖父まで糖尿病を発症した集団(TT)、父母のどちらかが糖尿病を発症した集団(CC)、そして家系に誰も糖尿病患者がいない集団(CT)に3分割しました。そして、一番左の図(A)では特に治療を行わず、真ん中の図(B)では糖尿病の薬を投与し、一番右の図(C)では生活習慣の改善を行いました。その結果、遺伝的素因があった場合でも、生活習慣の改善で十分に発症リスクを低下させることが可能であり、予防策として最も効果があることが判明しました。
図)中村さん提供資料
生活習慣の改善によって病気が予防されるのは、糖尿病だけではありません。急性心筋梗塞、肺がん、胃がん、大腸がんの発症要因の約7割は生活習慣によるものだと分かっています。遺伝的素因による発症は約3割なので、それと比較すると生活習慣の大切さが分かります。そして、その生活習慣は子どもの時に形成されるため、子どもの頃に正しい食習慣を身につけることは、健康に長く生きるために非常に大切なのです。
図)中村さん提供資料
国際食糧政策研究所の2014年世界栄養報告では、「良好な栄養状態は人間の幸福の基盤になる」とされています。胎内にいる時から2歳までの「最初の1000日」に栄養をしっかりと摂ることで、脳の機能障害を防ぎ、免疫システムを強化し、死亡率を減少させ、学習能力を高めることが出来ます。また、子どもが大人になれば生産性を向上させ、中高年期では慢性疾患や介護の予防にもなります。このように、胎児の時期から育つ過程においても良好な栄養状態を保つことは、子どもの人生における幸福の基盤となるのです。したがって中村さんは、子どもの頃から栄養についての教育をしっかりとすべきだと力強く主張されました。
写真)中村丁次さん(神奈川県立保健福祉大学学長・公益社団法人日本栄養士会会長)
次に、村山先生からは日本の給食制度と課題に対する提言がありました。
写真)村山先生
国際的にみても我国の給食制度は非常に優れています。下図からもわかるように、世帯年収によって児童の栄養摂取量には格差があります。栄養摂取量は高収入な家庭の児童ほど多く、低収入の家庭では低くなっています。しかし、給食がある日は年収による差はほとんどありません。これが日本の給食の質が高いと言われる所以です。他にも、学校給食のカバー率が非常に高いことやモニタリング・評価の仕組みが整っていること、肥満の予防・改善にも寄与しているなどの観点からも、諸外国と比較した際に優れていると評価を受けています。
図)村山先生提供資料
近年では、このような質の高い日本の給食制度が評価され国際協力が進んでいます。例えば、学校給食制度が未発達なベトナムにおいて、子どもの栄養状態改善と成人後の生活習慣予防を目的に、味の素ファンデーションを中心に2020年から日本の学校給食制度を展開しています。まだ効果については検証段階ではありますが、ベトナムでの成功事例をもとに、これからアジアに横展開していく予定です。
図)村山先生提供資料
村山先生のこれまでのご説明にもあったように、日本の学校給食制度は国際的にも優れた制度ですが、課題が1つあります。それは、学校給食は文科省、食育は農林水産省、健康は厚生労働省と行政管轄が異なることです。縦割りになっているが故に、総合的な学校栄養の研究や国際協力が進みにくい現状だ、と村山先生からご指摘がありました。そして、この課題を解決するには、総合的な栄養政策を行うための子ども庁のような機関が必要だとのご提言がありました。
図)村山先生提供資料
適切な量の栄養を摂取することは、子どもの人生に関わる重要な問題であります。したがって、こども庁では今回のご提言内容や「子ども食堂」も含め、積極的に子どもの食事のあり方について議論を進めていくつもりです。すべての子ども達が健康で幸せであるよう、子ども達の未来のために、これからも力を尽くして参ります。
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